老犬に多い問題のひとつとして「夜寝ない」ことが挙げられます。
若い頃はぐっすり寝ていたのに、なぜ眠らなくなってしまったのでしょうか。
この記事では、老犬が夜寝ない理由と寝かせる方法、対処するときの注意点について解説します。
獣医師 松葉 洋宗
経歴:2012年にアルフペットクリニックを開業し、犬猫を含めた幅広いペットの診療を行っています。セカンドオピニオンが非常に多い大型の動物病院(夜間救急対応)で犬猫やエキゾチックペットで副院長を務め、その後は日本動物高度医療センター脳神経科に勤めました。そうした経験で培った専門知識や診断能力を生かし、地域の動物医療に貢献したいと考えています。
老犬が夜寝ない主な理由5選
犬に限らず、人やそのほかの動物も高齢になると睡眠の質が変化し、眠れないことが増えてきます。
寝つきが悪くなったり、夜中に何度も目が覚めてしまったりすることも少なくありません。
まずは愛犬が夜寝ない原因を探り、適切に対処しましょう。
生活リズムが乱れている
病気の兆候はないのに夜寝ないという場合、最も多い原因は生活リズムの乱れです。
犬の体内時計は人間以上に正確ですが、日中ぐっすり寝てしまったり、十分に太陽の光を浴びなかったりすると狂ってしまい、生活リズムが崩れて眠れなくなります。
老犬の睡眠時間は18~19時間程度といわれていますが、日中寝てしまうとそのぶん夜に目が冴えやすくなり、そわそわ動き回ったり構って欲しいと吠えたりすることにつながります。
ストレスが溜まっている
一見普通に見えるかもしれませんが、犬も人と同じく加齢による変化に少なからずストレスを感じています。
体の痛みや運動能力の低下で大好きだった散歩にもあまり行かなくなると、運動不足や刺激不足から更にストレスが溜まる悪循環に。
ストレスがあると交感神経が過剰に活発化し、自律神経が乱れて眠れなくなります。
不安を感じている
加齢によって視覚や聴覚が衰えると、夜目が覚めたときに不安を感じやすくなります。
真っ暗な部屋で飼い主さんが近くにいない状況は老犬の不安を煽りやすく、寝ようと思ってもなかなか寝付けないというケースもあるでしょう。
特に普段から甘えん坊の犬や留守番が苦手な犬では、不安による不眠の傾向が強くなります。
睡眠環境が良くない
部屋が暑い・寒い、ベッドが固い、外がうるさいなど、睡眠環境に問題があるのかもしれません。
高齢になると体温の調節機能が低下するため、若い頃よりも寒さを感じやすくなります。
また、関節の痛みや皮膚トラブルを抱えているとベッドや毛布の寝心地が悪く感じ、なかなか眠れないこともあります。
要求したいことがある
夜寝ないことに加え、夜鳴きをしたり、床や壁を叩いたりする場合は、飼い主さんに何か要求があってアピールしている可能性があります。
老犬になると自分でできないことが増えるうえ、脳機能の低下により我慢ができなくなります。
「トイレに行きたい」「喉が渇いた」「なにか食べたい」「体が痛い」など考えられる要求は複数あるため、愛犬の様子をよく見て推測してみましょう。
腎不全や心臓病などの体調不良で調子が悪い
犬の腎不全や心臓病は加齢とともに発症率が高まります。これらの病気が原因で、愛犬の体内に異常が起こっている場合、寝付けないことがあります。
特に心臓病や呼吸器疾患は、横になると呼吸が苦しくて眠れない状態になってしまうことも。
そのような場合は、朝まで様子を見ず夜中であっても、動物病院へ受診しましょう。
認知症などの痴呆症、脳炎や脳腫瘍などの神経疾患
老犬になると認知症を発症し眠らないことがあります。さらに、脳炎や脳腫瘍などの神経疾患も不眠の原因となります。
特に、認知症は睡眠サイクルが崩れてしまい、進行すると昼間に寝て、夜中に覚醒してしまう昼夜逆転になってしまうことも。認知症だと気づいたら早めに、動物病院へ受診しましょう。
次に、犬の認知症の症状について説明していきます。
ウロウロ徘徊するときは認知症の可能性も
夜鳴きや徘徊、反応の鈍化などの様子もみられる場合は、認知症の可能性も考えられます。
認知症の犬は昼夜逆転を起こしやすく、日中ぐっすり寝て夜寝ないことが多くなります。
認識能力や判断力の低下からすぐ不安になって飼い主さんを呼んだり、近くに人がいても気づかず鳴き続けたりするケースも少なくないでしょう。
なお、認知症の症状はある日突然現れるわけではありません。
初期症状としては、ぼーっとする時間が増える、狭いところに入り込みたがる、障害物によくぶつかるなどが挙げられます。
それ以外にも、飼い主さんが認識できない、後ろに下がることができない、旋回運動するなどの行動がみられることも。
もし愛犬に認知症を疑う様子が見られる場合は、早めにかかりつけの動物病院を受診し、適切な診断を受けることが大切です。
なお、「認知症だと思っていたら実は脳腫瘍が原因だった」という可能性もあるため、自己判断はしないようにしましょう。
老犬が夜寝ないときにすべき6つの対処法
老犬が夜寝ない原因は犬によってさまざまです。
部屋を暗くすると決まってウロウロする、不安そうにクンクン鳴くなどの状態が続くと、飼い主さんも参ってしまいますよね。
老犬が夜寝ない場合はどのように対処すればよいのでしょうか。
ここでは、老犬が夜寝ないときに実践してほしい6つの対策を紹介します。
朝は日光を浴びる
体内時計をリセットするため、朝起きたら必ず日光を浴びる習慣を付けましょう。
日光を浴びると睡眠ホルモンである「メラトニン」の分泌が減り、反対に体を覚醒させる「セロトニン」というホルモンが分泌されます。
その結果、日中の眠気を感じにくくなり、夜ぐっすり眠れるようになります。
高齢のため自力で歩けない場合は抱っこして外に出かけたり、ガラス越しに日光浴させたりするだけでもOKです。
セロトニンの分泌は目に見える光「可視光」によって起こるため、直射日光を浴びる必要はありません。
愛犬の体力を考慮して、負担にならない方法で行ってください。
日中の活動量を増やす
適度な運動は睡眠を促進してくれるため、日中の活動量を意識して増やすことも大切です。
追いかけっこや取ってこい遊びなど体力のいる遊びは難しくても、おやつ探しゲームや知育おもちゃを使ったトレーニングなら無理なくできるのではないでしょうか。
日中はなるべく眠らせないようにして、体内時計のリズムを整えてあげてくださいね。
仕事で昼間遊んであげられない場合は、老犬ホームや老犬シッターを利用するのもおすすめです。
預け先によっては日中マッサージをしてくれたり、知育おもちゃで遊んでくれたりと、日中ぐっすり寝ないよう配慮してくれるかもしれません。
普段と違う場所で過ごすことで脳が刺激され、適度な疲れで夜寝てくれる効果も期待できます。
温度や寝具など睡眠環境を見直す
睡眠環境が原因で眠れない場合は、寝床や室温などを見直すだけですんなり眠ってくれることもあります。
寝るときの環境で特に重要なのは「光・温度・音」です。
照明は犬が不安にならない程度に暗くして、なるべく静かな環境で眠らせてあげましょう。
無音だと怖がる場合は、秒針の音がカチカチ鳴る時計を設置したり、犬のためのヒーリング音楽を小さめにかけてあげたりすると安心して眠れます。
適切な室温は犬によって異なりますが、基本的には23~25℃を目安に調整してあげると良いですね。
また、老犬用のベッドは耐圧分散性が高く厚みのあるものがおすすめです。
歳を取って筋力が落ちてくると寝返りを打つのも大変になり、体の痛みや疲労感を感じやすくなります。
愛犬が朝までぐっすり眠れるよう、寝具はなるべく体に負担がかからないものを選びましょう。
寝る前に食事・トイレを済ませておく
老犬になるとトイレが近くなるため、夜中尿意で目を覚ましてしまうケースは珍しくありません。
室内トイレで排泄できる場合は夜寝る前にトイレに連れていき、排泄するよう声掛けをしましょう。
また、夜寝る前に軽く食事させると、夜お腹が空いて目が冴えてしまうことを減らせます。
夕食から昼食までの時間が長すぎると胃にも負担がかかるため、空腹にさせ過ぎないよう注意しましょう。
外でしか排泄できない場合は散歩の時間を遅くしたり、夜間だけおむつを使用したりといった方法があります。
愛犬と飼い主さん両方の負担にならない方法を考えてみてくださいね。
声かけやスキンシップで安心感を与える
老犬の不安な気持ちに寄り添い、声かけやボディタッチをするのも効果的です。
愛犬が夜眠らず鳴いているなら、抱っこやマッサージをしながら優しくなだめてあげましょう。
飼い主さんが離れると不安そうにする場合は、寝る場所を近くにしてあげると安心して眠りやすくなります。
また、気持ちをリラックスするアロマや夜鳴き対策グッズを活用するのもひとつの方法です。
犬のリラックス効果が期待できるアロマとしては、ラベンダーやカモミールなどがあります。
その他、体につけたり飲ませたりして使う「レスキューレメディ」という商品などさまざまなアイテムが販売されているため、良さそうなものを探してみてはいかがでしょうか。
動物病院で相談する
色々工夫しても夜寝てくれない…という場合は、かかりつけの動物病院でアドバイスを受けましょう。
多くの動物病院では気持ちを落ち着かせたり、寝つきを良くしたりする薬・サプリを取り扱っています。
薬と聞くと「体に負担はないの?」と身構えてしまうかもしれませんが、用法・用量を守って使用すれば危険はありません。
なお、最近は鍼灸治療で不眠改善を行う動物病院も増えています。
鍼灸とは症状に適したツボを鍼や灸で刺激することで、人では肩こりや腰痛などの代替医療として広く行われています。
大きな副作用がなく体に優しい治療法としても知られているため、老犬にも安心して受けさせることができます。
夜寝ない老犬に対応する際に注意すること
犬が夜なかなか寝てくれないと、飼い主さんも心身ともに疲れてしまいがちです。
なんとか眠らせようと無理に動きを止めたり、感情的に怒ってしまったりすることもあるかもしれませんが、それはかえって逆効果。
不安な気持ちやストレスが増幅し、更なる問題を引き起こす可能性があります。
愛犬が夜寝ないときは、一晩付き合ってあげるくらいの余裕を持って接しましょう。
なるべくゆとりを持って接することができるよう、家族で交代しながら対応することも大切です。
まとめ
私たち人と同じように、犬も歳を取ると眠りが浅くなったり、寝つきが悪くなったりします。
生活習慣やストレスが原因で自律神経が乱れると、日中眠って夜に目が冴える悪循環に陥ってしまうことも少なくありません。
愛犬が夜寝なくなったときは様子をよく観察し、どうして寝ないのか理由を考えてみることが大切です。
また、病気による痛みが原因で眠れないことがあるかもしれないので、あまりに眠らない場合は一度動物病院で相談するようにしましょう。
原因によっては解決まで時間がかかることもありますが、あまり思いつめすぎず、ゆとりを持って対処してみてくださいね。