ある日突然、愛犬の歩き方がおかしいと、飼い主さんもパニックになってしまいますよね?
歩き方がおかしい場合は、愛犬の筋肉や骨に何かの異常が起きているのかもしれません。
今回は、犬の歩き方がおかしい時に考えられる原因や対策、予防法について獣医師が解説します。
獣医師
【経歴】
北里大学獣医学部獣医学会 卒
砂川犬と猫の病院 勤務医
都内の獣医師専門書籍・雑誌出版社 編集者
吉田動物病院 勤務医
獣医師として就労する傍ら、犬・猫・小動物系ライターや監修として活動中
【資格・所属】
一般社団法人 日本ペット技能検定協会認定 ドッグライフアドバイザー/西日本心臓病研修会 心エコー技術トレーニングコース 修了/獣医画像診断学会 所属/ペット栄養学会 所属
犬の歩き方がおかしい!歩行異常から考えられる原因
犬の歩行異常が見られる原因といってもさまざまです。
ここでは、代表的な原因や病気について見ていきましょう。
老化によるもの
視力が低下している
加齢による白内障などが進行すると、眼が見えにくくなってきていることで視界がぼやけ、歩き方がおかしくなることがあります。
高齢で黒目の部分が白っぽくなってきたら、白内障の可能性が高いです。
認知機能の低下
犬は認知機能の低下、いわゆる認知症が起こると旋回などの歩行障害や失禁、昼夜逆転で夜泣きをするなどの症状が見られることもあります。
筋力が低下している
加齢に伴い運動量が減少すると、筋力の低下や筋肉や関節が硬くなる柔軟性の低下が生じるのです。
それに加えて、神経系の伝達が遅くなることにより、バランス能力が低下し、足元がふらつき、歩行が不安定になります。
骨関節炎(変形性関節症)
骨関節炎は高齢犬に多く見られる病気です。骨関節炎を発症すると、関節に痛みや変形、こわばりが生じるため、足を引きずるしぐさを見せます。
また、肩や前足に関節炎があると、不自然に頭を上下させて歩くこともあります。
四肢の病気
肉球・指・爪の異物や炎症、ケガ
肉球の負傷や火傷、指の間の炎症(指間炎)、爪の折れのなどによる違和感や痛みから足を地面につけず浮かせたり、引きずったりといった歩行異常がみられます。
また重度の場合には、高所からの落下や交通事故により、指の骨が脱臼したり骨折している可能性もあるのです。
捻挫や骨折
犬の骨折は高い場所からの落下や交通事故などによる外傷によるものが多く、発生部位では前足が56.1%と骨折全体の半分以上を占めます。また、イタリアン・グレーハウンドやトイ・プードル、ポメラニアンなどの前足が細い小型犬で骨折は多い傾向です。
症状としては痛みから、触られた時や動いた時にキャンと鳴く、触ろうとする人に攻撃的になる、動くことを嫌がり、起き上がることが困難になります。
また、痛みにより呼吸回数が速くなることや、こまかい震えが見られる場合があるのです。
骨折してから少し時間が経つと、犬の興奮は徐々におさまり、患部に腫れや熱感が見られることや、足を地面に着けずに歩く、引きずる、さらには食欲がなくなったりしてきます。ただ、犬は痛みに耐えることがあり、症状を隠してしまい骨折したかどうか不明瞭なこともあるため注意が必要です。
捻挫は骨折との違いが分かりづらい病態ですが、足を着くか、着かないかで見分けることができます。足を痛そうにしていても着きながら歩いている場合には、骨折の可能性は少ないでしょう。
股関節形成不全
股関節形成不全とは、骨の変形により、骨盤と太ももの骨である大腿骨の関節部分(股関節)がかみ合わなくなり、関節内に炎症が起こる病気です。大型犬によくみられ、栄養や運動、遺伝などが要因となります。
関節の状態によって症状は異なりますが、腰を左右に振って歩くモンローウォークや横座りが特徴的な症状で痛みが強い場合には、運動をしたがらない、起き上がりにくそうにするなどの症状がみられます。
膝蓋骨脱臼
膝蓋骨とは、膝のお皿のことで「パテラ」とも呼ばれています。膝蓋骨脱臼は、膝蓋骨が本来ある位置からずれる(脱臼する)病気です。遺伝性のものと、打撲や落下など外傷により起こる後天性のものがあり、遺伝性のものが多く、小型犬で発生頻度が高くなっています。
症状は軽度では、たまに片足を上げて3本足で歩く(スキップ様歩行をする)が、すぐに4本足で歩いたり、飼い主が抱き上げた時に膝が「パッキン」や「カックン」と鳴る感覚があります。
重度になると、ジャンプや段差の登りが出来なくなったり、完全に後ろ足が着けなくなったりする場合もあります。
前十字靭帯断裂
前十字靭帯は、膝の中にある靭帯のうちの1つです。肥満や加齢によって強度が落ち、前十字靭帯に外力が加わることで発症します。
症状としては、後ろ足で踏ん張るのを嫌がったり、片足を上げたまま着地しないなどが見られます。
関節リウマチ
犬も人同様、関節リウマチを発症します。
関節リウマチは、免疫介在性関節炎と呼ばれ、免疫異常により関節に炎症が起きる病気です。
免疫介在性関節炎には、関節表面の軟骨などが破壊され、びらんが生じる「びらん性」と「非びらん性」があります。
このうち、びらん性のものがいわゆる関節リウマチです。
関節リウマチでは、関節のこわばりや痛み、倦怠感、発熱、食欲低下が現れます。
腫瘍
骨肉腫は大型犬で発生が多く、骨自体に起こる腫瘍(原発性骨腫瘍)では一番発生頻度が高い悪性腫瘍です。
四肢に骨肉腫が発生すると、局所の腫脹や歩行異常といった症状が現れます。
また、骨肉腫は骨溶解と骨増生が同時に起こるため、非常に強い疼痛が伴い、時には病的骨折を引き起こします。
骨肉腫は転移の可能性がきわめて高く、命にかかわる場合もあるのです。
耳の病気
耳が原因の前庭疾患
鼓膜の奥にある内耳には前庭と三半規管と呼ばれる、平衡感覚に関わる器官があります。これらは、小脳や延髄にある平衡感覚の中枢と神経でつながっていて、身体のバランスを保っており、このどこかに障害が起こると、バランスを保つことが難しくなります。
中耳炎や内耳炎など耳の病気により、内耳やそこにつながる前庭神経が障害されると、眼振や首を傾けたように頭が斜めになる斜頸、よろめいて立てない状態になることもあります。
また、同じ症状が現れているにも関わらず、検査によって原因となる病気が特定できないものは特発性前庭症候群と呼ばれ、高齢の犬で比較的多く見られる前庭疾患です。
脊髄の病気
椎間板ヘルニア
背骨の骨(脊椎)と骨の間には、椎間板と呼ばれるゼリー状のクッション成分があり、脊椎にかかる衝撃を吸収する働きを持っています。その椎間板が何らかの原因により、正常な位置から逸脱し、脊髄(脊椎の中を通る太い神経)を圧迫することで、痛みや麻痺などを生じるのが椎間板ヘルニアです。
椎間板ヘルニアの主な症状は、痛みと麻痺で、軽度であれば、ソファに飛び乗らなくなったり、歩きたがらなかったりなどの様子がみられます。
また、圧迫されている脊髄の痛みから、首や背中、腰を触ったり、抱きかかえると「キャン!」と痛みを訴えるのも特徴です。
病状が進行してくると、足が麻痺することによってふらつきや、足を引きずったり、足先が裏返って足の甲を地面に着けて歩くようになります。さらに重度になると、立ち上がれなくなったり、自力で排尿ができなくなることもあるので注意が必要です。
馬尾症候群(変性性腰仙部狭窄症)
馬尾症候群とは、脊髄神経の末端である馬尾神経と呼ばれる部分が圧迫され、機能障害が生じる病気です。
外傷や関節症、椎間板ヘルニアなどが原因となり、馬尾神経が圧迫されると、尾の付け根辺りの痛みにより尾が振れないや、後足を前に投げ出してお尻で座ったり、後足を引きずるなどの歩行障害、排泄障害などの症状が現れます。
その他、脊髄の病気には、変形性脊椎症や脊髄梗塞、椎間板脊椎炎、脊髄腫瘍などがあり、いずれも椎間板ヘルニアに似た麻痺や歩行異常の症状が認められます。
脳神経の病気
脳炎
脳炎とは、脳に炎症がおき、神経症状が主な症状として現れる病気です。
原因によって感染性脳炎と非感染性のものに分けられ、感染性脳炎はウイルスや細菌、寄生虫などの感染が原因として挙げられます。
犬の場合は、これらが原因ではない非感染性の脳炎が多い傾向です。
症状は、脳炎の部位や大きさによってさまざまですが、一般的にはけいれん発作を起こしたり、不安定な歩き方や、頭が傾いたり、同じ方向にクルクルと回ったりします。症状が進行すると、意識障害や昏睡状態になり、最悪の場合には死に至る場合もあります。
その他、歩行異常が現れる脳の病気には、水頭症や脳腫瘍などがあります。
歩行異常がある犬は受診が必要?緊急性のあるサインとは
一言で歩行異常と言っても、足を引きずる、足をあげる、足に力が入らないなど、症状はさまざまです。
元気や食欲があっても、歩行異常の原因によってはすぐに治療が必要な場合もあるため、以下のような場合には動物病院を受診した方が良いでしょう。
”早急”に動物病院を受診する必要がある4つのサイン
- 患部が他の足と比べて腫れている
- 大量に出血している
- 足を地面に着けることができず挙上している
- 強い痛みを感じている様子がある
これらの症状がある場合は、足になにかしらの異常が起きており、緊急で受診する必要があります。夜間の場合は、受診する前に一度病院へ電話して指示を仰ぎましょう。
動物病院を受診する必要がある場合
- 足を引きずっている
- 歩く時にふらついている
- 起き上がるのがつらそうに見える
- 走ったり、飛び跳ねたりしなくなった
- 不自然に腰を左右に振って歩いている
- 横座りをしている
- 散歩に行きたがらないなど歩くのを嫌がる
- 尾を振らず下げていることが多くなった
- 階段やちょっとした段差の昇り降りを嫌がる
- 飼い主さんが遊びに誘っても遊びたがらない
- 家の中や外であまり動かなくなった
これらの症状があった場合は、飼い主さんの時間があるとき、なるべく早く動物病院へ受診しましょう。
足に異常がない場合もありますが、一度獣医師に診てもらうと安心です。
犬の歩き方に異常が見られたときの対応
ここでは、犬の歩き方に異常が見られたときに飼い主ができる対応について解説します。
動物病院へ受診を検討する判断材料となるため、まずは愛犬の様子をしっかり観察していきましょう。
異常のある足はどの足か確認する
犬の歩行の様子を観察し、地面に着かないように上げている足や、引きずっている足はどの足か確認しましょう。
ただし、確認のために無理矢理歩かせると、症状が悪化することがあるため注意が必要です。
足に腫れや出血など、異常がないかチェックする
歩行に異常が見られたら、肉球に何か刺さっていないか、指の間に炎症を起こしていないか、異物がついていないか、爪が折れていないかを確認しましょう。
また、足に腫れや熱感、損傷、出血などの異常がないかを調べるのも大切です。
しかし、患部を必要以上に触ると、状態が悪化する場合があるため避けるようにしてください。
足に異常がみられたのはいつからかどのようなタイミングか記録する
歩行がいつまで正常で、いつから異常がみられるようになったかを記録しておきましょう。
また、歩行異常が突然生じたり、自然に改善したりする場合には、どのようなタイミングで歩行異常が起こるかも大切なポイントです。
歩き方の動画を撮る
上で述べたように、犬は痛みを隠す場合があり、家では歩行に異常がみられたのに、動物病院では異常がみられないということがよくあるのです。
そのため、歩き方に異常がある場合には動画を撮っておくと、診断の一助になります。
早目に動物病院を受診するか、すぐ受診できない場合は安静にする
歩行異常が認められたら、早目に動物病院を受診するようにしましょう。
すぐに受診できない場合には、歩き回らないようケージに入れるなどして安静にすることが大切です。
犬の足腰への負担を減らす予防法
最後に、足腰への負担を減らす予防法についてご紹介します。
足裏・爪のお手入れをこまめに行う
足裏の毛をケアせずに放置しておくと、フローリングなどで滑りやすくなってしまいます。
また、爪も定期的に切らずに伸ばした状態にしておくと、肉球に刺さってしまうこともあるのです。
適正な体重と筋力をキープする
肥満は足腰に負担がかかりるため、体重管理に努める必要があります。
さらに、筋力をキープするために、適度な運動をすることも大切です。ただし、肥満傾向の犬では、急に無理な運動をすると、足腰を痛めてしまう場合もあるため注意しましょう。
フローリングには滑り止めマットやカーペットを敷く
滑りやすいフローリングには、滑り止めのマットやカーペットを敷くことにより、足への負担を軽減させましょう。
段差にはステップやスロープをつける
段差にステップや滑り止め加工を施したスロープをつけることにより、高い所から飛び降りることがなくなり、骨折などのリスクや、膝や腰への負担を軽減できます。
サプリメントを試してみる
関節に効果のあるペット用サプリメントを試してみるのも一つの方法です。
しかし、持病がある場合には、使用前に獣医師に相談しましょう。
定期的な健康診断を受ける
歩行異常には、上で述べたように病気が潜んでいる可能があります。そのため、定期的な健康診断を受け、病気の早期発見・早期治療に努めましょう。
まとめ
いつも愛犬をしっかり観察していないと、歩行異常にすぐに気付くことはできません。
日々愛犬の様子をチェックするようにしましょう。
また、愛犬が高齢の場合は、歩行異常を「歳のせいだ」と見過ごしてしまうこともあります。
歩行異常には、病気が潜んでいる可能性もあるため、動物病院を受診するようにしましょう。
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