犬も人間と同じように咳をすることがあります。
しかし、その咳がどんな原因で起きているのか、また動物病院に連れて行ったほうがいいのかを飼い主さんが判断するのは難しいでしょう。
咳の原因となる病気の中には、早急に対応が必要なものも含まれているため、初期段階での適切な判断がとても大切です。
この記事では、犬の咳の主な原因と対処法、そして緊急で動物病院に受診したほうがいい犬の咳についてわかりやすく解説します。
株式会社TYL 取締役 兼 アニホック動物病院グループ 総獣医師長 :藤野 洋
経歴:日本大学生物資源科学部獣医学科卒業後、小動物臨床やペット業界での経験を積む。2007年に株式会社フジフィールドを創業し、多摩地域で動物病院とトリミングサロンの多店舗展開を実現。2017年に同社株式を譲渡し、2019年に退任。2021年より株式会社TYLの取締役を務める。
犬の咳の原因は?
犬が咳をする原因は、一概に病気だけとは限りません。普段の生活の中で自然に咳が出てしまうこともあるのです。
ここでは、犬が咳をする原因を生理的なものと病気によるものに分けて、それぞれ詳しく解説します。
生理現象
生理現象として起こる咳は、「カッカッ」や「カハ」といった乾いた咳が一瞬だけ出ることが多いです。
これは、ごはんや水、またはほこりなどが気管に入ったときに反射的に出る咳です。
また、首輪が喉を圧迫した刺激によって咳が出ることもありますが、これが一時的なものであれば特に心配する必要はないでしょう。
よくみられる病気
ここでは、犬の咳の原因となる代表的な病気をいくか紹介します。
ケンネルコフ
ウイルスや細菌が原因の感染症で、短く乾いた咳が特徴です。
特に免疫力の弱い子犬がかかりやすい病気と言われています。
初めて子犬を迎えた方は、咳ではなく「えづいている」と思われることも多いようです。
ケンネルとは犬小屋という意味、コフは咳を指し、その名の通り繁殖が行われた場所やショップなどで感染が広がってしまうケースが多いです。
おうちに迎えたばかりの子犬や、ワクチン未接種の犬が咳を繰り返すようであれば、ケンネルコフの可能性があるでしょう。
肺炎
犬はウイルス、細菌、真菌(カビ)などから肺炎を発症することがあります。
また、食べ物を誤嚥してしまう誤嚥性肺炎やアレルギーや寄生虫による肺炎もあります。
「ゴホッゴホッ」という、こもった小さな音の湿咳以外にも「ゼーゼー」とした音が混じった呼吸音(喘鳴)が代表的です。
気管虚脱
口から肺に繋がる気管、本来はホースのように筒状になっていますが、何らかの理由でこの筒がつぶれてしまい呼吸がしにくい状態になってしまうのが気管虚脱です。
初期は飲水時に咳き込む程度ですが、進行すると「ガーガー」といったガチョウのような咳が出ます。重度の状態になるまで、ほとんど大きな症状が出ないこともあり早期発見が重要です。
シニア期の小型犬に多いと言われていますが、ビーグルや柴犬、レトリーバー犬種など中型・大型犬にも見られるほか若齢でも遺伝子の関係で発症してしまう事もあります。
特に夏の暑い時期に悪化します。
僧帽弁閉鎖不全症
左心房と左心室の間にある弁が正常に機能しなくなり血液が逆流してしまう病気で、特に老齢の小型犬で多く見られます。
初期はほとんど症状がなく、進行すると「ゼーゼー」とした咳が出て、疲れやすくなる、動きたがらなくなる、などの症状が出てきます。
進行すると血液の循環がうまくいかないことで、肺に水が溜まる肺水腫を発症します。
肺水腫が起きている時は横になると苦しそうにする、「ゼロゼロと」した湿咳が出る、チアノーゼを起こすなど命に関わる重篤な症状を伴います。
異物誤飲
おもちゃや堅いガムなど食道に異物が詰まった、引っかかっている、といった時に咳き込むことがあります。
咳以外にはヨダレや「ハアハア」とした荒い呼吸などが見られることが多いでしょう。
最悪、チアノーゼや呼吸困難を起こしてしまうことも。ぬいぐるみに入っている綿なども要注意です。
犬の咳の対処法は?
犬が咳をした場合、それが生理現象なのか病気を見極めることが大切です。
咳が単発で起こる場合や、特定のきっかけ(食事や特定の匂い)で出る場合は、生理現象であることが多いでしょう。
ただ、咳が止まらない、以前よりも咳が酷い、あるいは咳以外の症状が見られる場合は、病気の可能性があります。
ここでは、それぞれの場合に適した対処法について解説しましょう。
生理現象の場合の対処法
食事では、ごはんや水が気管に入らないよう、早食いや早飲みを防ぐ工夫をしましょう。例えば、早食い防止用のお皿に替えたり、水を飲む器の高さを調整することができます。
ほこりが原因で咳が出る場合は、定期的に換気をしたり、こまめに掃除をする、空気清浄機を使うといった対策を取りましょう。
首輪が原因で咳が出る場合は、首輪をハーネスに替えることで防ぐことができます。
それでも咳が続く場合は、咳が出る状況や様子、回数などをメモして、動物病院で相談するようにしてください。
病気の場合の対処法
咳が出る病気を飼い主さんが判断するのは難しいため、咳の様子や他に見られる症状、咳が出始めた時期などを詳しくメモして、獣医師に伝えられるように準備しておきましょう。
たまに咳をする程度であれば、生理的な現象であることが多いですが、毎日のように頻繁に咳が出る場合は、必ず動物病院を受診してください。
次に、緊急で受診したほうが良いケースについて説明します。
緊急で受診したほうがいい犬の咳は?
犬が咳をして病気を疑う場合でも、飼い主さんの都合や動物病院の休みなどで、すぐに受診できないこともありますよね。そのようなときは、様子を見てしまうものです。
単発的に咳が出る場合や、咳が続いても眠れていれば、緊急性は低いでしょう。
しかし、緊急で受診したほうがいい咳もあります。
- 舌や唇が青色や青紫色になっている
- 安静時も口を開けて呼吸している
- 体を横にすることができない
- 呼吸が荒い
これらの症状が見られる場合、呼吸困難を起こしている可能性が高く、様子を見ているうちに呼吸ができなくなる、最悪の場合の命を落とすこともあります。
夜中でも様子を見ずに、すぐに動物病院を受診してください。
また、誤飲が原因の場合も緊急処置が必要になる場合があるので、動物病院への受診が必要です。
まとめ
いかがだったでしょうか。ここでは犬の咳の原因やその対処法、さらに緊急で受診したほうがいい犬の咳を解説しました。
犬の咳は人間と違ってわかりにくく、のどに詰まったものを吐き出そうとする仕草や音に聞こえるかもしれませんが、それは咳であることが多いです。
また、犬は人間よりも咳をする頻度が少ないため、軽く考えず、病気の可能性を早めに見つけてあげることが重要です。
愛犬は症状を訴えることができないため、辛い症状が放置されてしまうこともあります。飼い主さんが早く気付いて対処してあげれるようにしましょう。